【書評】「世紀の空売り」と、「原発危機と東大話法」のテーマの類似について(BritishRabbit/英国兎)

3冊読みました。

  1. 原発危機と「東大話法」(安冨歩
  2. 経済学の船出(安冨歩
  3. 世紀の空売り - The Big Short -(マイケル・ルイス

 「東大話法」は反原発活動家の方々は良くご存知と思います。「経済学の船出」は2010年出版の本で、現在の日本と世界の経済の問題点を解説した本です。原発には触れていませんが、経済の問題を丁寧に分かりやすく説明してくれる本です。宗教やホイヘンススピノザの思想など、観念的な思想、宗教に関係する記述も多いです。「東大話法」は原発事故を受けて、急いで出版されたものと思いますが、「経済学の船出」は丁寧に書かれていますし、原発事故とは関係なく書かれているので、却って基本的な問題をきちんと説明しています。「東大話法」を理解する上で、いっしょに読んだほうがいいと思います。

 で、「世紀の空売り」ですが、これは思想など関係なし。ビッグマネーの動くアメリカ、世界の金融業界が一変したサブプライムローン問題、リーマンショックの裏で、「この業界や社会はおかしい」と気付いた一握りの人達が、空売りをしかけて巨額の利益を得たという内幕物です。少々、脚色もあると思うのですが、エキサイティングな冒険物となっています。


 ところが、「東大話法」と「世紀の空売り」のテーマがまったく同じなんですよ。

 「間違った言葉を使っている」と次の問題が起きる、というのがテーマです。

・最初は嘘をついていることを自覚していた人たち/業界が、自分で嘘をついていることが分からなくなる
・その結果、個人、会社、社会が暴走してしまう
・暴走の結果、破綻する
・嘘や暴走に気付いて声をあげている人はいるけれど、破綻するまで無視される。
・声を上げた人は社会からの迫害を受ける

 安冨さん自身が1980年代に金融業界におられたので、本に書く対象は違えど、根は一緒なのですね。

 そして、「東大話法」と「世紀の空売り」の最大の違いは、後者はすでに終わった話で、前者は、今もどんどん進行している話の途中に出てきた本だ、ということです。恐らく、安冨さんは日本社会全体がリーマンショックのような破綻を迎えることなく、回復に向かって欲しいという思いを込めて出版されたのだと思いますが、「世紀の空売り」は、暴走や破綻は阻止できそうにもないと思わせます。彼らができたのは、暴走に気付いたら「空売り」する、あるいはせめて「安全策」「保険」(抽象的な意味です)の対策をすることでした。


 もう一つ、「世紀の空売り」を読んで感心したのは、社会全体がインチキをしていることを、彼らが冷酷に自覚していたことです。システムが破綻するときは相手の会社や社会システム全体が壊れるとみんな自覚していた。つまり、会社の株を空売りしても「証券取引のシステム全体が潰されたら資金は回収できない」「政府がいきなり債務保証したら、空売りしているのだから、大損になる(債務保証は究極のインチキだ)」という、とても現実的な認識を持って空売りをしていたことです。だから、経済システムが壊れる前に手仕舞いしたし、契約も、相手が破綻しても担保を確保できる契約を周到に準備した。ここは、我ら反原発活動家もよく心しておくべきだなと思いました。

 ということで、「世紀の空売り」も反原発派として、必読書だよん。

 ところで、「経済学の船出」には、原発の話なんて出てこないぞ。言葉を直すだけで、ホントに原発事故を乗り切れるのか?