【書評】ブーメラン(マイケル・ルイス著)/ユーロ危機も瓦礫利権も根はいっしょ(BritishRabbit/英国兎)

 「世紀の空売り - The Big Short -」に続いて、「ブーメラン - 欧州から恐怖が返ってくる -」を読みました。

1. 内容紹介
 内容はサブプライムローンに絞った「世紀の空売り」の続編として、ユーロ危機と、それがアメリカに跳ね返ってきている実情を書いているのですが、インタビューを取って出しの雰囲気があり、文章や構成が練れていないのは事実です。(その点では、「空売り」は文学作品と言えるくらい、よくできている)。
 ただ、その状態で出版したのは、マイケル・ルイスがこのタイミングで世に出さなければいけないという使命感を持っているのでしょうね。

 印象的なのは、「この危機は政治家や銀行員が引き起こしたわけではない」が結論になっていることです。特にカリフォルニアに関して、「私は選挙民に財政を立て直すために選ばれたが、財政再建の政策をすべて選挙民につぶされた」(だいたい、そんな感じのことを言ってたと思う)というシュワルツネッガーの言葉は重いし、破綻した自治体のインタビューも「どうしようもない」が結論。民主主義社会で、市民が自分の取り分を主張し合って、経済をぶち壊してしまった、あるいはぶち壊しつつある社会を、文章を練っていないがゆえに、却って生々しく描写しているように思います。

2. 本丸は日本
 最後の解説が、、、ええ、反原発/反被曝派の方々にはお馴染みの藤沢数希さんで、、、ちょっと引きましたが、マイケル・ルイスも本丸は「日本とフランス」だと書いていますし、「リーマンショックギリシャデフォルトは原因や結果ではなく、「兆候(はじまり)」だ」と書いていることから、経済規模の大きいこの二つの国がマイケル・ルイスの、というか「潰して儲ける」金融業界の次のターゲットになっているのでしょう。

3.被曝への反応との類似
 311以降の日本社会の放射能汚染に対する態度もまったく同じで、政府が、自治体が、官僚がと言う前に、一般市民が自ら対策を放棄してしまったし、思考も停止してしまった。問題の根源は市民の意識にあるという面で、マイケル・ルイスの描いた世界と類似性を感じます。いや、個人レベルえの理性的、合理的な判断を放棄しているという点で、マイケル・ルイスの世界より悪い。

 山田順の資産フライト〜安冨歩2冊(経済学の船出、原発危機と東大話法)〜マイケル・ルイス2冊(世紀の空売り、ブーメラン)と読んできて、この日本の瓦礫処理に代表される、野放図な利権優先構造と、無軌道な経済政策、財政のでたらめさというのは、もう止まらないだろうと思いました。それは政治家がうんぬん、官僚がうんぬんじゃなくて、国民全体のマジョリティがそうだから。国をつぶそうとしているのは国民自身だから。安冨さんの本を国民全員が読んで、心を清らかにして得を高め我欲を捨てる、なんてありえないもの。いまだにうちの会社の○○なんて、「国が安全だと言っている瓦礫処理は安全だと信じるしかない。被災地の復興に力を貸すのが国の方針であり、それに従う」なんて言ってるんだぜ。

4. これからの個人の対応は?
 で、それを止められないならどうすればいいんだ?どうやって逃げればいいんだ?有り金全部持って、マレーシア行けばいいのか?っていうのが分からなくて、この前に日本関連の国/地域がひどい状態で滅んだ実例として、満州国の末路を知りたいんです。だけど、安い本で読めないんですよね。チャーズとかの読み物じゃなくて、実際にどのタイミングでどこへ逃げたら安全なのかが知りたい。実利の意味で。そこについて、統計的に安全な避難方法を出すのが、満州国研究家の責務じゃないかと思うんですよ、安冨さん、深尾さん。

 次回予告Kindleの日本向けが買えるようになったら、マンガ「日本沈没」も読もうと思ってます。Androidでも読めるんだけど、脆弱なAndroidにクレジットカード番号を入力する度胸がないのですよ。iPhone/iPad買えばよかったのにね。